岩間の地域紹介
もみじ三夜様の化物
昔、もみじ三夜様に化物が出ました。出るものは何時もきまって一ッ目の大入道でした。それで夜になると三夜様を通る人はありませんでした。
ところが、伊兵衛さんはある日、府中へ用足しに行って思ったよりもひまがかかって帰りが夜になってしまいました。府中へは一本道なので、帰りはどうしても、もみじ三夜のそばを通らなけれぱなりませんでした。
伊兵衛さんは、化物のことを聞いて知っているので恐ろしかったが、他に道がないので仕方なく、 「なあに化物なんぞ出ない。そんなこと有るはずが無いんだ」 と、自分に言い聞かせるようにして、それでもやっぱりおっかなびっくりしながら帰って来ました。それで三夜様の近くへ来るともう体中がぞくぞくしました。
三夜様の上にさしかかっている、大きな楓の木の下まで来ると、ぱらぱらっと楓の葉が二、三枚落ちてきました。
はっと思ったときには、「出る、出る」という噂のとおりの一ッ目の大入道が、道をふさぐようにして直ぐ目の前に立っていました。たまげた伊兵衛さんは、夢中でそこをかけぬけて家へ帰りました。
家には、近所の人たちが来て囲炉裏に火を焚きながらお茶を飲んでいました。ぜいぜいと息をきらして駆け込んだ伊兵衛さんは、囲炉裏端にぺたっとしてみんなに、
「いま三夜様のところで、化物に出られたんだ」
と、恐しさにまだ息をはずませながら、それでもようやくの思いでこれだけ言いました。
人達の中には気味悪そうな顔をして聞いている人も、またにやにやしながら聞いている人もありましたが皆、
「その化物はどんな顔形をしていたっけ」
と聞きたがったが、伊兵衛さんが恐ろしそうに息をはずませているので、話しなど聞くどころではありません。
すると、その人達の中の伊兵衛さんの横の方にいた一人が、おどけたような声で
「伊兵衛さんよ、その化物はこんな顔をしていなかったかい」
と、言ったのでその方に向き直ってみると、それはたった今出合って来た一ッ目入道でした。
もみじ三夜様は、上安居から東大牧場へ行く途中に今もあって、大きな楓が生い茂って淋しいところです。